ステートメント

dent and undead

岐阜県の山間部に御母衣ダムというダムがある。高度経済成長期に建てられたこのダムは毎年、3月半ばから5月の終わりにかけ３億３千万立方メートルにもなるその貯水を放水し、人々の生活を支える膨大な電気エネルギーを生むが、過去にはこのダム建設のために１つの村が湖底に沈み、人々が自身の生活を捨てざるを得なかった歴史も存在する。放水によって、水の中に眠っていた生々しく残る生活の痕跡がその姿を表す。残されたわずかな水面に影を落とす枯れ果てた樹木の亡霊たちは、エネルギーの循環の中で翻弄される現代の人々の姿を写しとっている。空になったダムの中は破壊と再生を繰り返す、自分を取り囲む世界の縮図のようだった。

受賞者プロフィール

足立 涼

愛知県立芸術大学博士前期過程 美術研究科修了。「写真の同時性」に着目し作品を制作。2020年、時間や空間の変化によって起こる不在・消失とそれに伴うコミュニケーションの在り方をコンセプトとしたシリーズ「Other space, Other points」を発表。同作品の巡回展を各地で開催。現在、愛知県在住。

審査員 選評

場所を注視することは基本的なこと。シーンとなる場所。自分の主張を表現しない、眼に考えさせるスタンスを促すこの写真群は新しくドキュメントを探る指針でもある。

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